月報司法書士 2002年4月号 [Legal Support News]より

 司法書士制度と成年後見制度

   社団法人 成年後見センター・リーガルサポート 副理事長 岩澤 勇

◆1.ころばぬ先の杖
 1995年2月、東京・霞が関の「イイノホール」で「第一回 ころばぬ先のシン
ポジウム」が開催された。日司連が初めて高齢者問題に関わった活動であり、司
法書士による成年後見制度はここからスタートしたといってよいであろう。
 同年8月には、日司連に成年後見制度創設推進委員会が設置された。翌年2月
の開催を約束した「第二回 ころばぬ先のシンポジウム」への対応を主たる目的
とするものである。奇遇にも法務省法制審議会の新しい成年後見制度導入へ向け
た民法改正審議も、この年の7月にスタートしている。
 委員会では当面の対応から法改正へ向けてという方向性で審議を続け、「第二
回 ころばぬ先のシンポジウム」では、監督人を契約の当事者に加えた三面契約
による支援、「財産管理センター構想」を発表し、好評を博するとともに、大き
な反響を呼んだ。
 その後に続く、日司連と各司法書士会共催の地域フォーラムや、司法書士会と
ブロック会主催の市民公開講座、海外視察の成果は、具体的な相談実践活動とと
もに新しい成年後見制度構築に大きな役割を果たしたが、同時に司法書士の認知
度を飛躍的に高めたといえる。
◆2.歩きながら考えよう
 社団法人成年後見センター・リーガルサポートの設立が決定され、発起人会が
開催されたのは今から3年前である。600頁に及ぶ成年後見テキストが全司法書
士に配布され、全国的に研修活動が実践された。
 この間、「成年後見制度の需要はどれくらいと予測するか」といった問題や、
司法書士の能力の問題、事実行為と法律行為を混同した問題、その他多くの意見
や疑問が寄せられた。これらへの回答や未知の問題、検討を要する課題は決して
少なくなかった。そして、多くの人からもっと腰を据えてじっくり考えたら、と
のアドヴァイスもいただいた。
 私たちはこれらの質問に積極的に答えてきたつもりである。しかし、実際に委
員会では停止してじっくり考える余裕はなかった。日司連や各司法書士会におけ
る研修、外部からの講師依頼、原稿依頼があり、成年後見大綱の策定、海外視察
といった事業も抱えていた。さらに、共に検討・実践してくれる仲間を増やす必
要もあった。
 「歩きながら考えよう。止まっていたら先に進まない。走っていたら考えられ
ない」これが当時の姿勢だったのである。
◆3.成年後見制度と司法書士制度は『クルマの両輪』
 今、成年後見制度が施行されて、2年が過ぎようとしている。司法書士界では、
リーガルサポート設立時の成年後見制度へ向けた熱気は沈静化したかに見える。
しかし、多くの社員司法書士の尽力の結果、リーガルサポートは着実に前進し、
新しい成年後見制度の下での中核的存在になりつつある。
 成年後見制度が報道される場面では、必ずといってよいほどリーガルサポート
が取り上げられている。しかも、報道の際には、「司法書士の団体であるリーガ
ルサポート」、「司法書士会が作ったリーガルサポート」というように、必ず
「司法書士」という言葉が冠記される。
 いわば、成年後見制度は、従来の執務と異なる場面で司法書士に大きな活躍の
場を提供したのである。
 「成年後見制度と介護保険は『クルマの両輪』」という言葉で表現され、介護
サービス契約の締結や施設入所契約に際して使われることが想定されていた。現
在のところ財産管理のために利用されるというケースが多いようである。
 その一方で、成年後見制度へ向けた司法書士の取り組みが高く評価され、司法
書士の認知度を高めるに至っている。そして、それが司法書士制度改革に大きな
役割を果たしたことを思えば、成年後見制度と「クルマの両輪」であったのは、
実は介護保険ではなく、司法書士制度であったと言っても過言ではなかろう。
◆4.財産を守る司法書士から人権を守る司法書士へ
 現在、リーガルサポートには一定の評価を含めた、高い期待が寄せられている。
一つは、困難な事件でもリーガルサポートなら受けてくれるだろうとの期待であ
る。また、リーガルサポートの取り組み方を導入しようとの動きもある。さらに、
リーガルサポートへの仲間入りを希望する動きもある。家庭裁判所によっては、
不在者財産管理人、相続財産管理人、そして未成年後見人等の事務の受託を希望
するところもある。
 これらは、いずれも成年後見制度の立場からも司法書士制度の立場からも望ま
しいことであることは言うまでもない。
 しかし、現実を考えると単純に喜んでいるわけにはいかない。「困難な事件」
は、これを突破しなければ次の段階には行けない。次の段階に行かなければ、
「さすが司法書士」ということにはならないのである。ところが、司法書士に限
ったことではないが、「困難な事件」であることを認識した段階で尻込みをする
傾向がある。法人としてはそれでよいかを考えなければならない。
 なぜ困難なのか。結論を言えば、本人を巡る家族関係が正常でないことにある。
そして、ときとして暴力・暴言がつきまとう。しかし、多くの司法書士はこれへ
の対応方法について訓練ができていない。そこで尻込みをすることになる。法人
としても、そのような危険な状況に社員を送り込むことに躊躇してしまう。
 抽象的な表現であるが、成年後見制度が高齢者や障害者の人権を擁護する制度
であることを再確認し、それを実践するために成年後見に名乗りを上げたもので
あることを自覚するとともに、暴力・暴言への対応方法を学ぶ必要があるという
ことになる。あわせて、法律家とは何か、なぜ法律家なのかを自らに問い直す必
要があろう。
 一方、リーガルサポートへの参加を希望している他の専門職が少なくない。少
子高齢社会へ進もうとしている日本社会、成年後見制度の今後の普及を考えると、
司法書士全員が成年後見制度に取り組んでも潜在需要に対応しきれないことは目
に見えている。このような点からは、他の専門職にも門戸を開放した方が望まし
いことはいうまでもない。しかし、司法書士による成年後見制度への取り組みは、
単に成年後見制度の普及発展のみを視野に置いているのではなく司法書士制度の
発展を重要な存在目的としている。この双方をにらみながら、そのバランスの上
で今後の展開を考えなければならない。
 リーガルサポートの取り組み方を導入しようとする他団体の動きについては、
リーガルサポートの在り方が成年後見実践のスタンダードになりつつあることの
現れであると見ることができよう。その限りでは、望ましい方向性ということも
できる。しかし、リーガルサポートが築き上げたノウハウをどこまで、どのよう
にして開放することが可能かといった問題がある。
 また、内部的には研修の規制を緩めてほしい、報告義務を緩めてほしいといっ
た声が少なくない。
 これら外部の動きを優先させれば、組織の弱体化を招く恐れがあるし、内部の
声を聞けば、成年後見制度そのものが安直なものとなってしまう危険性もあろう。
 以上を総合的に考えれば、原点として、司法書士が法律家であることの意味を
十分に考える必要があるし、憲法の人権規定をもう一度学び直す必要を感じる。
 しかし、それだけではない。成年後見制度実践が魅力的なものであるよう、リ
ーガルサポートでも工夫する必要があるし、各地で家庭裁判所へ協議を持ちかけ、
報酬その他の問題について改善を図っていく必要がある。
 報酬に関しては、成年後見事務の関連で、人的広がりや未済の登記事務、裁判
事務が発見され、成年後見以外の分野の報酬が見込まれること、前述の不在者財
産管理人、相続財産管理人等の事務を委嘱され、さらに遺言執行事務等からの収
入が見込まれることから決してボランティアと呼ぶべきものではないことを認識
すべきである。
 すでに、「司法書士が成年後見制度を実践している」との社会的認識が高まり
つつある。今後、不動産取引の立会においても成年後見制度が話題になることが
増えていくであろう。今後は、苦労の割に報酬が安いという問題も解決されてい
くことが期待される。その結果として、より多くの司法書士が、積極的に取り組
めるようになるであろうし、また、そうなるよう尽力しているところである。
◆5.「待ち」の法律家から「街」の法律家へ
 平成13年6月12日に公表された「司法制度改革審議会意見書」は、「弁護士と
隣接法律専門職種との関係については、弁護士人口の大幅な増加と諸般の弁護士
改革が現実化する将来において、各隣接法律専門職種の制度の趣旨や意義、及び
利用者の利便とその権利保護の要請等を踏まえ、法的サービスの担い手の在り方
を改めて総合的に検討する必要がある。しかしながら、国民の権利擁護に不十分
な現状を直ちに解消する必要性に鑑み、利用者の視点から、当面の法的需要を充
足させるための措置を講じる必要がある。このような観点に立ち、訴訟手続にお
いては、隣接法律専門職種などの有する専門性を活用する見地から、少なくとも、
司法書士の簡易裁判所での訴訟代理権(簡易裁判所の事物管轄を基準として調停・
即決和解事件の代理権についても同様)を付与すべきである」としている。
 すなわち、この意見書は、司法書士に簡裁代理権を与えるべきことを述べ、同
時に今回の司法制度改革に基づく司法書士法の改正が暫定的なものであり、弁護
士の数が十分に整った段階で再度見直すべきことを述べている。
 「司法書士に簡裁代理権を」は、司法制度改革審議会委員の意見であるが、私
たち司法書士の願望でもある。いわば、司法書士が希望し、試験的に与えられる
ものである。従って、多くの司法書士が積極的に簡裁代理権資格を取得すること
が求められる。与えたものの多くの司法書士がそっぽを向き、司法制度改革の役
に立たなかったというのでは、司法書士職能の存在意義が改めて問われることと
なろう。
 また、司法制度改革審議会では、司法書士の能力が問題にされた。平成12年2
月8日開催の第12回審議会において、中坊委員より、「先ほど税理士と司法書士
のことについて非常に教育がされておるからということです。それは確かにそう
でしょう。それは建前、そうであるだろうということでしょう、しかし、現実に
それではその方々に仕事をさせてみなさいよ、できますかということ。私は、例
えば、何人かの方を使ったんです。弁護士と比べると御存じないですよ」との発
言がなされたが、否定されないまま議事録に掲載されているのである。
 私たち司法書士としては、簡裁事務実践の上でそれが誤りであることを示さな
ければならない。そして、そのためには創意と工夫により、従来の弁護士の方法
と異なる、独自性のある新たな裁判事務の方法が開発されることが望まれる。
 現在の司法書士制度改革が前述のように暫定的なものであることを意識すると
き、市民社会における司法書士の在り方を考え、実践しながら、今後の司法書士
のあるべき道を探らなければならない。
 弁護士のように国際法務や企業法務へ進むことも一つの方向である。また、不
動産法務のスペシャリストを目指す方向もある。しかし、これらは、弁護士との
競合領域である(現在でも、弁護士が関わる不動産法務は非常に多く、人気が高
い)。
 私は、このような特定分野のスペシャリストを目指すのも一方向であるが、今
般の司法制度改革が「市民の司法による救済」の道を広げることを目的とするも
のであることから、市民社会の身近な法律家を目指すことこそ新たな方向ではな
いかと考える。すなわち、一般市民が社会の中で生活する上での、日常の法律問
題を解決する法律家であることが一番望まれているのではないかと思うのである。
市民社会に根を下ろし、市民社会に必要不可欠な存在になることこそ司法書士の
将来像であろう。
 このような視点から見るとき、改めて「街の法律家」という言葉を思い返して
みる必要がある。私たち司法書士は、「司法書士は街の法律家です」という。し
かし、実際にそうであろうか。一般的には、金融機関や不動産業者を相手に、こ
れらから連絡が来るのを待っている「待ち」の法律家ではなかっただろうか。も
う一歩足を踏み出し、真に「街」の法律家になることが期待されているのである。
 そのためには、不動産登記や財産法の知識だけでなく、広範な法律知識と法律
実務が求められる。成年後見制度は、登記事務や裁判事務のように特定分野に関
する執務ではない。高齢者や障害者といった対象の特定性はあるが、その執務分
野は、登記事務や裁判事務を含むだけでなく、日常生活や福祉に至る分野と極め
て広い。また、その執務の内容も、事案聴取能力や取引に関する折衝能力、非定
型文書の作成等、簡裁代理のための訓練にも役に立つことが少なくない。
 司法書士制度と成年後見制度の発展のため、リーガルサポート未加入の司法書
士各位には、積極的な参加を呼びかけるとともに、日司連及び各司法書士会へは
従前に増したご支援をお願いする次第である。