月報司法書士 2003年04月号 [Legal Support News]より

司法過疎解消に向けて
〜小笠原におけるリーガルサポートの試み〜

社団法人 成年後見センター・リーガルサポート
法人後見委員会委員 加藤 正泰

 「おが丸」のカラオケルームに、いつもの歌声が響く。中島みゆきの「地上の星」だ。
 東京から南に下ること1000?の洋上の島々、東京都小笠原村。人口は約2500人。本誌でも既に幾度か紹介されているが、交通手段は通常、「おがさわら丸」という一艘の船の往復という航路のみ。通称「おが丸」。総トン数6679tの「おが丸」が波頭を駆ること片道25時間半。現地で船は2〜3泊するため、本土から往復するのに最低5日は要し、島に渡る便は月に4〜5便しかない。南海の孤島という地理的状況ながら、裁判所も法務局もないことから、司法過疎の極北と言われている。
 1999年、全国青年司法書士協議会がこの地で法律相談会を行ったことが発端となって、弁護士、税理士、公証人、学者等の専門職が集まり「小笠原サポート専門家グループ」が組織された。現在年に2回、小笠原に渡航して相談活動を行っている。
 小笠原の相談会に参加した誰もが抱く、同様の感想がある。
 「小笠原に裁判所を!」
 島に裁判所がないため、必要性が生じた場合、島民が多額の費用と多くの日数を費やして管轄の東京(霞ヶ関)まで出向かなければならない。司法アクセスという側面からみれば「法の下の平等」からはほど遠い状況にある。このような現実を目の当たりにした誰もが、島の司法機関の必要性を痛感するのである。
 そしていつしか「小笠原サポート専門家グループ」のメンバーの間では、一時巷で話題となったNHKの番組「プロジェクトX」を模して、小笠原に裁判所が来る日こそ、自分たちの「プロジェクトX」であると勝手な夢想をするようになり、島へ向かう「おが丸」の中で「地上の星」をがなる冒頭の光景が、恒例となってしまったのである(ただし、海が荒れるとみな、毛布をかぶり船底の貝となる)。
 小笠原での法律相談は、島の歴史から起因する諸問題が絡み、根深く複雑な案件が多い。このような問題のほとんどは継続案件となるのであるが、その中の一つに、関係者が高齢であるため早急な解決が必要な、いわゆる親亡き後問題といわれる成年後見問題を含む案件があった。この事案は、本土であればすぐに後見人が選任され、特に問題なく解決に至ると思われるケースであった。ところが小笠原では、その後見人の問題がネックとなった。
 小さな島であるがゆえ、障害者や高齢者の施設を建設するだけの予算がなく、福祉に関する環境の整備は遅れており、地理的条件から、簡単に福祉関係者が内地に成年後見の研修に行くというわけにもいかないため、成年後見制度に関する知識もほとんど普及していない。よって、後見人の実務をこなせる人間も法人もいなかった。一方、内地の後見人だけでは、先にも記した交通事情のため、本土から緊急に駆けつけたり、頻繁に往来することがほぼ不可能であり、後見実務をこなすことができないことが予想された。このように後見人の適格者がいないために、なかなか解決の糸口が見つからない案件であった。
 ところが今般2月の渡航で、この案件が急転直下、後見申立に至ることとなった。関係諸機関等と協議を重ねた結果、まず、現地の親族とリーガルサポートの複数後見として申立てを行い、将来的に島の福祉関係法人に後見業務を引き継いでいくという形で合意が得られたためである。
 先日、東京家庭裁判所の中込秀樹所長はじめ家裁関係者の方々に、状況説明をさせていただく機会を得た。せっかくの機会であるため、小笠原の現状も含めた説明をさせていただき、その日のうちに本件の申立てを行い受理された。今後の推移については、機会があれば報告したい。
 司法過疎が問題とされる今、その南海の孤島で、リーガルサポート、ひいては司法書士が、法の下の平等を実現させる端緒を担うことの意義は、決して小さいものではないはずだ。さらに、この試みが成功すれば、同様の形式で全国の離島や山奥の司法過疎地において成年後見制度を機能させていくことができるのではないだろうか。このように考えると、改めてリーガルサポートという法人の存在意義と与えられた使命の大きさを、再認識する次第だ。
 最後に「小笠原サポート専門家グループ」の一員としての余談を。今回の申立てが一つのきっかけとなって、司法機関の方々に小笠原の現状に対する理解が広まっていくならば、私たちにとっては望外の喜びである。いずれにせよ私たちは、小笠原に裁判所を!と願う我らが「プロジェクトX」の大願が成就するその日まで、「おが丸」のカラオケルームで、「地上の星」をがなり続けていることだろう。