月報司法書士 2003年10月号 [Legal Support News]より

信託業務への挑戦

社団法人 成年後見センター・リーガルサポート
理事長  大貫 正男 

 大正11年に制定された「信託業法」の抜本的改正が、今秋に予定される臨時国会で実現されようとしている。金融審議会(内閣総理大臣の諮問機関)の平成15年7月28日付「信託業のあり方に関する中間報告書」によれば、[1]特許権や著作権などの知的財産権、建物の賃借権や担保権などについても信託の範囲を拡大する、[2]従来は事実上信託銀行にしか与えられなかった業として行う信託業務を信託銀行以外にも門戸を開く、[3]遺言信託について取り扱える者の範囲を拡大する、などの方針を明らかにしている。また、この場合の参入基準として、株式会社を基本に、信託業務を健全かつ適切に遂行し得る財産的基礎(最低資本金の確保)及び知識・経験を有する人的構成を要求し、あわせて、信託関係法令や受託者責任に係るコンプライアンス体制の確保等も必要としている。この改正は、とりわけ信託業の担い手の拡大をはかるという点で画期的であり、具体化した場合、これまで以上に信託制度が多くの国民に利用され、国民経済の活性化にもつながるものであり、大きな期待を寄せているところである。
 さて、リーガルサポートは設立当初より本人の生活や権利擁護に主眼を置いた、いわば「福祉信託(パーソナルトラスト)」の担い手として名乗りをあげて来た。これは、従来のわが国にはなかった形態であり、財産を保全するとともに本人の生活を保護・支援する仕組みである。リーガルサポートは、信託を活用することにより、いわゆる「親亡き後問題」にも対応できると考えたのである。ところが、現行の信託業法等との整合性のかねあいで定款に事業として盛り込めず、痛恨の思いをした経緯がある(定款では「財産管理業務等」と表現することにより、信託業務を範囲とすることに含みをもたせてある)。したがって、今回の信託業法改正の気運の中で、再び信託業務に挑戦できる機会が巡って来たと言えよう。
 公益法人たるリーガルサポートが信託業務を行う最大のメリットは、利潤の追求より福祉を優先したスキームが可能なことにある。一例を挙げれば、金融資産はさほどないが、自宅やアパート等を所有している親が遺言信託を設定し、親の死後も受益者である障害者(子)に安定した生活費を供給していくことである。また、「親亡き後問題」だけでなく、配偶者の一方が痴呆症で判断能力を喪失している場合に遺言信託を設定し、自分の死後も受益者である配偶者のQOL(quality of life=生活の質・生命の質)を高めていくという利用も可能である。実際にこの需要は多く、信託銀行としても、そのような信託に取り組みたい意欲はあるものの、コスト等の問題で今まで見送ってきた分野であった(信託財産の下限を1億円程度としている)。リーガルサポートのめざす信託は、あくまで「公益を目的とした事業」に沿う限定された分野である。したがって、信託銀行、そして今後参入するであろう株式会社等とは今後も競合するおそれは少ない。
 ところが、今回の中間報告書は「福祉信託」に直接触れられていない。しかし、そもそも信託の起源は妻子などのための生活保護ないし扶養を目的としたものであった。興味深いのは、十字軍、百年戦争等に出征する騎士たちが、自分の家族のために、自らの信頼する友人等に自分の土地を委ねて戦争へと赴いていったというケースである。委託を受けた友人(受託者)は委託者の出征中は土地を適正に管理し、その収益を残された家族(受益者)に対し給付し、さらに委託者が生還した時には、受託していた土地を委託者へと返還したのである(新井誠『信託法』有斐閣2002年7月に詳しい)。欧米の信託は、その精神を承継しており、「福祉信託」の採用はまさに国際標準と言えよう。今回の法改正は、「富裕層の利殖・投資のため」という商事的色彩の強い信託を、福祉重視の機能も兼ね備えた信託へ再構築できる絶好の機会である。その突破口を切り開くためにもリーガルサポートを始めとする公益法人にも参入を認めるべきである。
 リーガルサポートの財源、人材、事務局体制等の課題を抱えているのも事実である。しかし、現状において、社員がすべて司法書士であること、理事会及び各種委員会等によるガバナンスが充実していること、成年後見制度に関するノウハウが蓄積されていること、法人に対する成年後見監督人の依頼など家庭裁判所との多面的連携がすすんでいること、日司連の支援が期待できること(信託法でいう信託管理人に準じた監督委員会のようなシステムをお願いしたい)等の理由から、体制をより充実させることを前提にして、「福祉信託」を具体化できる可能性のある組織として、まずリーガルサポートが筆頭に挙げられるであろう。
 リーガルサポートは、従来の財産管理業務の中から「成年後見」という新たなる公益を創造してきたという実績がある。同じ志を抱く司法書士がいち早く「職業後見人」として名乗りを上げ、誰も経験したことのない未知の分野へ挑戦し、その結果、多くの会員が成年後見人等に選任され各地で幅広い後見活動を行っている。再び、その手法を使うことにより、新たな公益たる「福祉信託」(パーソナルトラスト)を日司連と連携をとりながら高齢者・障害者等の福祉のために創造したい、と考えている。